1997年12月15日第1版第1刷
帯付 帯少ヨゴレ カバ背ヤケ(褪色) 三方微ヤケ・天と小口に少シミ
※ この本は、ミケランジェロという男が、いかにして自分のコンプレックス(潰れた鼻)を、神がかり的な伝説にすり替えていったか、その壮大な自分語りを解読する、美術史のパズルです。
よく知られているとおり、ミケランジェロは若い頃、喧嘩で鼻の骨を折られ、生涯その「潰れた鼻」に悩まされました。しかし、彼はその欠点を「神に選ばれた者の印だ」という壮大な物語(自伝)の中に組み込んだのだ、とバロルスキーは指摘しています。
ミケランジェロには、弟子に書かせた「自伝」がありますが、バロルスキーによれば、彼の彫刻や絵画そのものが「偽装された自伝」ということになります。彼は自分を「神のごとき彫刻家」として演出するために、作品の至る所に自分の内面やコンプレックスを隠し、後世の人間がそれを「発見」するように仕向けたのであると・・・。美術史の父ヴァザーリが書いた「芸術家列伝」におけるミケランジェロの項は、本人のプロデュースによる「神格化」の産物であり、我々が知っているミケランジェロ像は、彼自身が巧妙に作りあげた「記号」だったというわけです。
「潰れた鼻」から、ルネサンス最大の芸術家の精神構造を丸裸にする本、と言ってもいいですね。身体の下部や欠陥への執着が、高尚な芸術に化けるという話。ミケランジェロを、自分の見せ方を完璧にコントロールして自らプロデュースした、したたかな演出家として描いています。翻って考えてみれば、「表象」"image"がいかに政治的に、あるいは芸術的に捏造されるかということです。コンプレックスという「敗北」を「神話」にして「勝利」に変換する・・・なんだか、種村季弘が喜びそうな「一流の詐欺師」のような趣がありますね。(Ho)