1997年5月10日第1刷
帯付 状態良好です
※ まことに歴史というものは、いかに文明が崩壊し、ことばが裏切り、理性が野蛮に転じたか・・・その繰り返しのようなものですが、そのような「絶望の歴史」に対する「逆説的な希望」もあるんですよ。この本は、文明が滅びゆく暗黒時代に「ことば」と「教養」が密かに守り抜かれた事実を描いた物語です。
西ローマ帝国が崩壊し、ヨーロッパ大陸がゲルマン民族の侵攻によって古典文化を失っていくなかで、ユーラシア大陸の西の果て、アイルランドの修道士たちが果たした役割とは・・・。大陸で哲学、文学などのギリシア・ローマの古典が焼き払われていくなかで、アイルランドの修道士たちはそれらをせっせと書き写し、保存していました。数世紀後、再びヨーロッパが安定したとき、アイルランドからその知識が「再輸出」され、それが後のルネサンスの遠い種火になった、と説いています。つまり、アイルランドが文明の「避難所」であったというわけです。
ここでの「教養」は、絶滅から命がけで守るべき宝物として描かれています。修道士たちは、それが「役に立つか」ではなく、それが「人間にとって大切なことばである」という一点において、泥まみれになりながら羊皮紙にペンを走らせていた・・・未来のいつか、だれかが読むかもしれないという「具体的な希望」を形にしていましたということです。そのラテン語の古典に遊び心あふれる挿絵を添えていたというのも、いいですね。彼らにとってことばを書き写すことは、パロディでも管理でもなく、「生命の賛歌」だったのでしょう。
これは歴史の専門書というよりは、力強い筆致で描かれた「文化の英雄譚」です。忘れられがちなアイルランドの功績を、物語としてドラマチックに再発見させたもの。「暗黒時代」というとらえ方自体が少々ステレオタイプな気もしますが、これはアイルランドを英雄視する視点から、勢い余ったかな。
それでも、この「文明の灯を守る」という行為は、現代の、ことばが軽んじられる時代において、我々が「書き写し、守る」ことの意義を考えさせてくれるんじゃないでしょうか。(Ku)